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福岡高等裁判所 昭和34年(て)452号 判決 1959年10月28日

被告人 芝田コト 吉波栄次

主文

本件請求を棄却する。

理由

本件請求の理由とするところは、被告人は、被告人に対する外国人登録法違反被告事件につき、昭和三十四年九月十四日当裁判所が言渡した控訴棄却の判決に対し、これを不服として同月二十五日附上告申立書を書留郵便により当裁判所宛郵送したのであるが、右上告申立書は同月二十九日当裁判所に到着したため、当裁判所は該上告申立は上告申立期間経過後になされた不適法のものとして同月三十日上告申立棄却の決定をなし、右決定謄本は同年十月九日被告人の住居に送達された。しかし被告人としては右上告申立書は十分上告申立期間内に到着受理されるものと信じていたもので、右上告申立棄却決定謄本の送達を受けて始めて上告申立期間内に上告申立書が当裁判所に到着しなかつたことを知つたので、早速八幡浜郵便局につき調査したところ、台風のため遅延したものであることが判明したが、右は被告人の責に帰することができない事由に当り、この事由により上告申立期間内に上告の申立をすることができなかつたものであるから、上訴権の回復を求めるため、本請求に及んだものである、というものである。

よつて按ずるに、被告人に対する当裁判所昭和三十四年(う)第八百七十五号外国人登録法違反被告事件記録によると、同事件については昭和三十四年九月十四日当裁判所において控訴棄却の判決言渡があり、これに対し、被告人は当裁判所書記官宛として同月二十五日附「判決不服上訴願書」と題する書面を八幡浜向灘郵便局より書留郵便により発送し(同日午前八時より十二時までの間において同郵便局に受理されたものであることが右書留郵便の封筒に押捺された日附消印により認められる。)ているが、右郵便は同月二十九日当裁判所に配達され即日受理されているところ、右判決に対する上告申立期間は、同月二十八日の経過により満了しているので、当裁判所は、同月三十日右上告申立は期間経過後になされた不適法のものであるとして上告申立棄却の決定をなし、その謄本は同年十月九日午後二時十一分被告人の住居に送達されたことが明らかである。ところで八幡浜市において同年九月二十五日午前中に受付けられた郵便物であれば、通常の交通状態下においては遅くとも同月二十八日までには当裁判所に配達されるものと考えられる。従つて被告人が右上告申立書を書留郵便により発送した当時においては十分上告申立期間内に当裁判所に到着するものと信じたとしても寧ろ当然の事であると解される。然るに上叙の如く右上告申立書は右期間内に到着しておらず、同月二十九日に漸く当裁判所に到着受理せられているが、しかし遅延した理由は、被告人提出の八幡浜郵便局の証明書によると、同月二十六日頃本土に襲来した伊勢湾台風の影響により本土と四国間の連絡船が欠航するにいたつたためであることが、容易に推認される。して見ると、右遅延の理由は、被告人の責に帰することができない事由によつて生じたものと解するのが相当であるので被告人に上訴権回復の請求権があること明らかである。而して刑事訴訟法第三百六十三条第一項の規定によれば、上訴権回復の請求は、「事由がやんだ日から」「上訴の提起期間に相当する期間内に」これをしなければならないこととなつている。これを本件につき見るに、台風による連絡船の欠航がその事由であるので、一応欠航が終り再び就航するに至つた時即ち事由がやんだものと解すれば足るものの如くであるけれども、被告人はこの欠航を知らず、上告申立棄却決定謄本の送達を受けて始めて右事由を知つたものと思われるので、被告人の場合「事由がやんだ日」とは右上告申立棄却決定謄本の送達を受けた日と解するのが相当である。そうすると、本件においては右上告申立棄却決定謄本が被告人に送達された日の翌日即ち同年十月十日から再び上訴申立期間に相当する期間が進行し始めるものと解すべきこととなる。しかして本件の場合「上訴の提起期間に相当する期間」とは右十月十日から法定の十四日間と解すべきではなく、上訴の提起期間中の被告人の責に帰することができない事由によつて上訴の申立をすることができなかつた期間に相当する期間であると解するを相当とする。従つて本件の場合上訴の提起期間に相当する期間とは、連絡船欠航の期間は明瞭ではないが、公知の事実に属する伊勢湾台風の襲来状況及び本件上告申立書が上敍のとおり同年九月二十五日午前中に書留郵便に付され、同月二十九日当裁判所に配達されている事実より推して、その最長期間は、同月二十五日より上訴申立期間の最終日たる同月二十八日までの四日間であるとすることができよう。そうだとすると、被告人は遅くとも前記十月十日から四日間、即ち同月十三日までには上訴権回復の請求を為すべきこととなる。(本件の場合被告人は既に前記上告申立書を提出しているので、刑事訴訟法第三百六十三条第二項の要件は満たされているものと解する。)然るに被告人の本件上訴権回復の請求は、同月十三日附とはなつているが、これが封筒の日附消印によるとその翌十四日書留郵便により発送され、同月十七日当裁判所に受付けられているので、右は明らかに上訴権回復請求期間経過後の請求にかかり、不適法のものであることが明瞭である。よつて本件請求を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 青木亮忠 木下春雄 内田八朔)

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